先日のこと。
泉州某所。
知人を通じて紹介いただき、とある場所に向かった。
そこには、つい最近まで忠岡町で曳行されていた銘だんじりの姿があった。

そんな訳で、東京から帰省中の私は、ほぼ貸し切り状態で忠岡・生之町(生帰)の先代だんじりを見学させていただきました。
この地車は、個人さんの手にわたり、倉庫内で永久保存されるとのこと。
綺麗に洗いが施され、彫刻も欠けつけ・彩色がなされた地車は、今すぐにでも走り出しそう。
そんな至福の時間、暑い倉庫内ではありましたが、玉井行陽師の傑作を見入ってしまうのでした。
では、御覧ください。

まずは前後の姿見から。
さすが岸和田旧市うまれの地車。どっしりとした風格があります。

その風格は、平方向からも感じられます。
広く木取りされた枡合い、腰回りの彫刻。
この長さこそが、旧市生まれの証。

主屋根回りを見てみましょう。
三手先七段。明治・大正時代のだんじりによくみられる組み方です。

生帰といえば、この主屋根正面の枡会い。
「大正天皇即位大礼の図」は生帰の代名詞的図柄で他に類を見ない。

斬新かつ気品高き絵柄。

続いて右の枡合い。
「仁徳天皇民の竃を見る」、これも独特。

そして左側は「神武天皇東征八咫烏」。

木鼻も、生帰は唯一無二の細工。
向って左側面、後方のそれには旭日旗を咥える傑作。
その反対側の獅子は「萬歳」の札を持つ。

腰回り。まずは正面から。
【太閤記】で統一された土呂幕、正面は「加藤清正の勇戦」。

行陽師渾身の傑作。仕上げの細かさも素晴らしい。

助として、櫻井義國師も参賀されているので、その影響もあるのか、どこか雰囲気も似ているような。。。

続いて右平。「堀尾茂助の勇戦」。

左の平は「槽屋助右衛門 高名手柄」。

左右の松良も秀作。
右「大江山 頼光の木渡り」
左「安宅の関 弁慶義経徴打」

後屋根を見てみましょう。まずは枡合い正面から。
「素盞鳴尊大蛇退治」。
奥行は控えめですが、大胆で迫力のある作品。絶品です。

同じく後屋根枡合い

後方より向って
右「?」
左「村上義光錦の御旗奪還す」の名場面。

見送りを平方向から。
擬宝珠勾欄からは板勾欄が入り、ひと昔まえの形態。

さらに後屋根回りを見ると、この地車の渋い細工が凝縮されている感があります。
物見~竹の節~隅出す~隅木と隅木受け。
この密接感、このボリュームは最高です。渋い。

後方からその隅出す(左右)を見る。
九尾の狐も入ってますね。

見送り回りは難波戦記。


弓を放つ指先から、櫻井義國の作かと思われる馬乗り。

大脇もいいですね。

擬宝珠勾欄と、松の枝が細工された犬勾欄。

こちらは左右の脇障子。

摺り出し左右。古風な木取りが歴史を感じさせます。

時間を忘れて、脱水症状になりそうなくらい見入ってしまいました。

生之町(生帰)先代地車
製作:大正5年(岸和田市本町が新調)
大工:【絹屋】絹井楠次郎
彫刻:玉井行陽(助で櫻井義國)


猫の眼のような、そしてガラスの細工。
こういう箇所に古き良き作品の魅力を感じます。


令和3年3月28日に行われた昇魂式の風景を少しご覧ください。

いかがでしたか。
風格と貫録を感じる銘だんじり。
今後は倉庫内で永久保存されるとのこと。また機会があれば拝見したい1台です。
この度、お声をかけてくださったAさん、所有者のAさんと南工務店さんに心から感謝申し上げます。

では、これにて。